暇だったので、財政審の資料を改めて見直していました。
昨日は見落としていましたが、これ、対象範囲が配当所得に限定されてるかもしれません。
個人的な所感ですので、ぜんぜん的外れだったらごめんですけど。
スライドに譲渡所得が明記されていない
さて、官僚の資料には明確なルールがあって、「網羅性」「正確性」「(用語の)統一性」が求められ、スライドには関係あることは全部書き込んできます。書いてある範囲を狭く記載した場合は、関係各所から突っ込まれるので「等」を使い範囲を広げておくのが通例です。*1
それを踏まえた上で、財政審の該当スライドがこちら。
金融資産等を考慮に入れた負担を求める仕組みとして、上場株式の配当が例示されています。
ここで気になったのが、株式や投資信託等の譲渡所得(売却益)が例示されていないこと。前述したように、霞が関の資料においては、揚げ足を取られないように「等」を入れて対象となる範囲を広げておくものです。
ところが、この資料の◆金融所得と課税所得との関係(イメージ)では上場株式の配当に「等」が入っていません。仮に譲渡所得まで対象に含めるつもりなら「上場株式の配当等」として、欄外注に「株式等の譲渡所得なども同様」と表記するのが自然に思えます。
他方で下の【改革の方向性】(案)には「配当など(※)」として、譲渡所得も含めるように読めなくもないですが、実は※マークについては、図右の(例)上場株式の配当のハコの右の「選択可能」にかかっている=課税方式が本人選択により変わることを意味しており、配当「等」=譲渡所得などを含むという意味ではなさそうです。意図しているなら「配当等」と用語を統一した上で欄外注に記載します。普通は。
(240429追記)
でぐち104さんのコメントにて、(注1)に上場株式の譲渡益の記載がある旨をご指摘いただきました。こちらは「特定口座における源泉徴収では申告不要も可能」とありますが、意図がはっきりしません。
申告した場合は分離課税となり、合計所得金額に反映される=国保等の算定基礎として反映されます。配当のみ敢えて書いているのは、譲渡所得は総合課税で申告できないから別扱いと考えている?
つまり、配当所得を総合課税で申告し、配当控除を使えることだけを問題視した書きっぷりなんですけど、どうなんでしょう。
配当所得は総合課税、譲渡所得は分離課税の歴史
配当所得は保険料勘定の賦課対象とし、譲渡所得は対象外とも読める理由は何か。
恐らくですが、
- 配当所得=恒常性のある所得
- 譲渡所得=恒常性のない所得
という観点からの切り分けではないかと。
というのも、制限的所得概念(所得源泉説)においては、配当所得は給与等と同じく「反復的・継続的に生ずる」所得として考えられており、譲渡所得は一時的な利益として所得の範囲から除外すると考えられているためです。
他方で、包括的所得概念においては、担税力のベースとなる経済的な利得は所得すべてで構成される=一時的な利益も所得の範囲に入れて考えるとされます。
戦後のシャウプ勧告に基づいた税制では、包括的所得概念において税制が整備されたので、戦後の日本の金融所得は総合課税の対象でした。ですが運用面や効率面などで「やっぱり無理があるよね」となって、総合課税と分離課税と源泉分離課税等々、ごちゃごちゃになった時代がありました。1988年くらいまでの話です。
で、「これもやっぱり無理があるよね」となり、2002年に政府税調が「いろんな金融商品で税率や制度がバラバラなのはよくないよね。ひとつにしようぜ」と答申して、「金融所得の一体化」が進められ、税率やら課税方式がまとめられてきた経緯があります。その中で、金融所得は総合課税から分離課税へとなっていきました。
要は、日本の金融課税の考え方は、総合課税から分離課税へと流れてきたわけですが、その歴史的経緯の中で、配当所得は確定申告において総合課税も選択できる、という道が残り、配当所得控除もその残滓として刻まれているというわけです。(訂正:配当所得控除は二重課税の是正が目的です。でも分離課税や特定口座で源泉徴収された場合も二重課税の問題は残るはずなんだけど、なんで使えないんだろう?)
前置きが長くなりましたが、今回示された資料で、配当所得のみが保険料の賦課ベースに反映するような書きぶりになっているのは、「配当所得は給与等と同じ反復的に生ずる所得」という扱いだからでは、というのが僕の私見です。
もう一方の譲渡所得(分離課税)を含めてしまうと、一時的な所得の増減で保険料が変わってしまうことから、保険財政運営の安定性からも望ましいとは思えません。*2
損失が生じたときに保険料は減るのか
ということで、今回のターゲットは配当所得のみとみて、投信の売却益に手を突っ込んでくる可能性は低いと考えています。
もちろん、将来的にはわかりません。実際、財政審の方針は金融資産も含めた支払い能力、つまり応能負担に基づく制度設計の追求です。
今後の保険料財政を考えれば、後期高齢者の負担を増やしていくのが筋で、まずは原則2割負担を早急に実現すべきでしょう。これについては、今後の方向性としてスライドに書き込まれていますし、社会保障の改革工程にも明示されています(2割とは書いてないけど)。
後期高齢者1人当たり保険料と現役世代1人当たり後期高齢者支援金の伸び率が同じになるよう、高齢者負担率の設定方法を見直す。2024年度に実施する
もっとも、後期高齢者の自己負担を2割にしても、全体の8%→16%になるだけで、財源構成が適正化されるとは言い難いレベル。保険料のベース自体も引き上げていくとなれば、理屈付けしやすいのは「応能負担」、つまり金融資産に応じた負担で、今回みたいな話が浮上してくるのでしょう。
けど、あくまで私見ですが、譲渡所得まで手を突っ込んでくるのは無理な気がするんですよね。
譲渡益が出たとき → 保険料をガツンと徴収する
譲渡損が出たとき → 保険料をマイナスにする
これができますか?って話です。
特定口座における損益通算のように、数年内でプラマイを相殺する仕組みがあるなら理解できなくもないですが、プラスのときだけ徴税し*3マイナスのときは無視する、というのは公平性の観点から成り立ちません。
とすると、やはり恒常性のある配当所得だけが当面のターゲットで、スライドに譲渡所得を書き込まなかった、いや、書き込めなかったんだろうと推察するわけです。
まあ、あくまでぜんぶ想像の話で、いきなりひっくり返ったりするのが現実なんで、話半分に聞いていただければ幸いです。
個人的には、昨日の記事にまとめたように、特定口座は可能な限り早く、無税で現金化してNISAと贈与と法人に振り分け、将来に備えたいと思います。
【ブログ村に参加しています。よろしければ応援お願いいたします】
↓ ↓ ↓ ↓